2012年2月23日木曜日

高成長を当面維持するが構造的難題に直面―中国経済の行方を大胆予測

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レコードチャイナ 配信日時:2012年2月23日 6時17分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=58978&type=0

<コラム・巨象を探る>
高成長を当面維持するが構造的難題に直面―中国経済の行方を大胆予測

 世界景気のけん引役・中国について、景気失速、バブル崩壊、地方不良債権問題などのリスクが取りざたされている。
 その行方は国際経済に与える影響が大きいだけに、実態を冷静に分析する必要があろう。

 【景気失速リスク】
 2011年のGDP成長率が9.2%(前年10.4%)と伸びが鈍化、今年は8%台になるとの予想も出ている。
 キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹は
 「成長率の低下は中国政府が実施してきた緩やかな金融引締め政策の効果によるものであり、政府が意図した通りの結果。
 これによってインフレ圧力を抑制することに成功した」
と分析。
 消費者物価上昇率は昨年7月に、警戒ラインの5%を大幅に超えて前年比6.5%に達したが、その後低下傾向をたどり、11月以降は4%台前半に落ち着いている。

 柯隆・富士通総研上席主任研究員も、今年の中国経済について「物価の落ち着きとともに景気を刺激する方向に政策が動き、高成長を維持する」と予測。
 「11年のGDPの伸びは前年より1%程度下がったが、潜在的な経済成長率は約9%なので妥当」
としている。
 一番の強みは、個人で32%、全体で52%にも達する貯蓄率の高さ。
 「高貯蓄率が投資を支え経済をけん引する」
と語る。

 欧米の景気後退に伴う影響が懸念されるが、柯氏は
 「中国の輸出品は安価な生活必需品が多く大きく落ち込まない。
 投資引き揚げも相対的に微々たるレベルにとどまる」
と楽観的。
 「今年秋の胡国家主席らの退任への花道の意味でも高い成長率を維持する」
と見込む。
 何年も前から中国経済はいずれ失速すると言われながら、米欧日の苦境を尻目に主要国で「1人勝ち」が続いている。
 このまま高成長が続けば10年以内に米国を抜き世界一の経済国家になるとの予測もある。

【バブル崩壊リスク】
 上海、北京の不動産価格は2、3年前には30~50%もの高い上昇率に達したが、最近は前年割れの水準にまで低下している。
 「バブル崩壊」のリスクが懸念されるが、
 「行政的手段による半ば強制的な取引停止措置により、売買が成立しなくなっているためで、実需は衰えていない」(瀬口研究主幹)
という。
 北京、上海の大都市中心部の価格は低下しておらず、内陸部の成都、武漢等では依然前年比10~20%前後の値上がりが続いている。
 供給、需要両サイドが様子見の姿勢のため、取引量の激減により資金調達力の乏しい中小業者が、資金繰りに窮してやむなく値引き販売を強いられており、それが統計データ上の価格下落として現れている。
 こうしたことから、当面は不動産価格の長期下落が生じる可能性はなく、それが不良債権化するリスクもなさそうだ。

【地方債務リスク】
 2008年のリーマンショック後の経済刺激策の一環として地方政府が手がけた不動産開発の一部が不良債権化し、その資金調達に利用された金融会社向けの融資が焦げ付いている。
 銀行監督当局による厳しい資産査定の結果、楽観はできないが中国の財政余力から見ればコントロール可能な範囲内と評価された。

 中国政府は、米国などに留学した気鋭の経済学者を呼び戻し日本のバブル形成、バブル崩壊の過程を「反面教師」にして研究している。
 中国政府関係者や有力民間エコノミストは、現在高度成長期の真只中にある中国経済ではバブル崩壊に伴う不良債権問題の深刻化は起こり得ないとの見方で一致。
 高度成長の恩恵を受ける地域が従来の臨海部から内陸部に移行しつつあることもプラスに作用しているという。

 しかし、中長期的には政府が推進する「社会主義体制下での資本主義」の制度や社会基盤が整わず、所得格差、都市農村格差、環境破壊、官僚腐敗、情報統制など多くの解決すべき難題に直面している。
 柯氏は
 「このままではサステナビリティ(持続可能性)の問題に直結する」
と警告する。
 これらは10年前から胡錦濤主席が取り組んでいる課題だが、大半が先送りとなりそう。

 中国の次期最高指導者に内定している習近平副主席は
 「中国経済は今年、安定した成長を続ける。
 ハードランディングはない」
と指摘した上で、
 「われわれは今年以降、経済成長の目標を適切に引き下げていく。
 そのことはインフレ、エネルギー、資源、環境面でのプレッシャー緩和に寄与するだろう」
と強調している。
 今秋発足する習近平体制に課せられた使命はあまりにも大きい。
<巨象を探る・その14>

<巨象を探るはジャーナリスト八牧浩行(Record China社長・主筆によるコラム記事)>
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レコードチャイナ 配信日時:2011年9月26日 9時16分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=54620

<コラム・巨象を探る>
ネット情報急拡大で言論チェックは不可能ー中国メディア界に地殻変動

 中国では、インターネット人口が5億人に達し、携帯電話やスマートフォンのメールを操る人口も6億人以上に膨らむ中、「事実」「真実」はあっという間に伝播する。
 中国公安当局は懸命の情報規制を行っているが、完全にフォローし規制するのは不可能だ。

 さらに近年、中国版ツイッターのミニブログ(新浪微博など)が急速に普及(米ツイッター社、フェイスブックは禁止されている)。
 市民が発信する「ニュース」「情報」が瞬時に駆け巡る。
 ミニブログのユーザーは今年上半期で3倍増の約2億人に達した。

 今年7月の高速鉄道衝突脱線事故では当局が事故の翌日早朝に事故車両を穴に埋めるという異常な行動に出た。
 それがインターネット上や新聞報道で取り上げられたため、あわてて北京中央が動き、温家宝首相自らが乗り出して事態の収拾に乗り出さざるを得なかった。

 以前ならば、警察や人民解放軍を大量動員して、事故現場への立ち入りを封鎖し、闇に葬り去ることもできただろうが、情報が一気に伝播する現代では止めようがない。
 中国各地で起きている公害や汚職への告発も、これらネット情報がきっかけで大きな社会問題に発展。
 当局も「公害工場」の廃止や「汚職」の摘発をせざるをえなくなる事例が続出している。

 「今や中国は世界最大のネット王国。
 共産党政府も情報のコントロールは困難」(中国メディア幹部)
という状況で、当局は、これらネット情報が政府批判につながり、北アフリカ・中東の「ジャスミン革命」のような暴動を誘発しないか神経をとがらせている。

 中国当局はネット上の書き込みがきっかけで、著しい格差問題をはじめ、物価高、就職難など国民の不満に火がつくことを懸念。
 5万人ものネット監視員を動員し、24時間態勢でユーザーの書き込み内容、言論を監視・削除している。
 さらには巨額の費用を投じて「グレート・ファイアーウォール」のシステムを構築しているが、約5億人ものインターネットユーザーすべての言動をチェックすることは不可能だ。

 事実、中国共産党幹部はインターネットの影響力が強まっていることについて
 「経済のグローバル化や政治の多極化、技術の進歩がすさまじい勢いで押し寄せている。
 新旧メディアの境界、国内と国際問題の境界がなくなった。
 政治や文化などの問題も境界がなくなっている」
と指摘、メディア管理は
 「危機に直面している」
と率直に述べている。

 既存の伝統的メディアの世界も変化しつつある。
 北京で開かれた日中の有識者会議に出席し、中国の新華社、人民日報、中央電視台(CCTV)から新京報(北京地区最大の民間新聞)、大手ニュースサイトTENCENT などのメディア幹部と「メディアの役割」について討議した。
 中国のメディアは国営通信社・新華社を頂点とした、ヒエラルキーが存在、政府の意向に沿った報道がなされるよう、規制されているが、こうした構造が変化しつつあることを実感した。

 昨年秋の尖閣諸島事件の際、新華社が
 「中国漁船に日本・海上保安庁船が突っ込んだ」と「図解入り誤報」を配信した
ことがあったが、他の中国メディアがこのことを明確に批判していた。

 ただ中国の既存メディアには
 「社会の安定・発展を促すニュース」を選択して報道(当局の意向を忖度)すべきだとの「読者啓蒙論」が強く、「プラス情報マイナス情報すべて報道し、読者の判断に委ねる」
との日本メディアの考え方とは異なる。
 「真実・事実とは何か」
をめぐって、見解になお大きな隔たりがあるのは否めない。

 中国当局は「情報秩序」の重要性を引き続き強調。
 高速鉄道事故に対する批判的論調が目立った人気新聞「新京報」を共産党宣伝部の管理下に移行するなどの対抗策を講じているが、中国当局がメディアの発信する情報を完全にコントロールできた時代は終えんしつつあると見ていいようだ。

<巨象を探る・その11>
<「巨象を探る」はジャーナリスト・八牧浩行(株式会社Record China社長・主筆)によるコラム記事>

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レコードチャイナ 配信日時:2011年9月22日 8時16分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=54359

<コラム・巨象を探る>
驚くべき躍進の陰で、深刻な「急成長の負の遺産」
―日本の経験生かせ

 北京市内は近代的ビルが林立し、地下鉄も14路線が完成、総営業延長距離は世界一になった。
 車内には若者が多く、携帯電話で話す声も甲高いせいか、活気に満ちている。市内のあちこちで大型クレーンが稼働し、ビル建設ラッシュの真っただ中。
 地下鉄延伸や道路建設などインフラ工事も進んでいる。

 北京一の繁華街、王府井は巨大なデパートやオフィスビルが立ち並び、多くの中国人や外国人で賑わっていた。
 ここは東京・銀座にもたとえられるが、その華やかさと喧騒は本家をはるかに上回る。
 グッチやエルメス、バーバリーなどのブランドショップが軒を連ね、若い女性の多くがこれ見よがしにこれら欧米の有名ブランドを身に着けていた。

 数年前の北京で、ブランド品を持っている中国人がいれば、その多くは偽物だったが、今や大半が本物というから、変われば変わったものだ。
 また、以前の中国では店頭で価格交渉をして値切って買うのが常識だったが、目抜き通りの商店では値段の交渉をする風景は見掛けなかった。
 最近の10歳代から20歳代の若年層は一般的に値切る行為はみっともないと思うようになってきているという。

 一般庶民の住居地区も歩いたが、昔ながらの野菜や肉を売る店に交じってコンビニ店も出現。
 商品も日本や欧米先進国と変わらない。
 食堂・レストランも外食を楽しむ人々でいっぱい。
 数年前に比べ、明らかに生活水準は向上しているとの印象を持った。
 ある初老の男性は
 「10年前には比べ豊かになったのは確かだ」
と明るい表情で話していた。

 しかし、あまりに急激な経済成長の結果、多くの分野で歪が生じている面も否めない。
 街路はおびただしい数の車が溢れ、深刻な渋滞が生じている。
 10キロほど距離なのに車で1時間半以上もかかったこともあった。
 空はスモッグで霞み、裏通りに密集する庶民の家々も依然見劣りのするものだった。

 大気・水質汚染、食品安全問題、交通事故、労働災害、格差、物価高、就職難など急速な経済成長の「弊害」が一気に噴出している。
 東京大学北京代表所の宮内雄史所長は
 「日本は高度成長の弊害を克服し、安全で調和のとれた国へと転換した。
 日本は中国にそのノウハウを伝授することができるし、中国もそれを求めている」
と力説する。
 確かに日本が40年近くかけて達成した高度経済成長を、中国は改革開放後のわずか20年で実現。
 さらに拡大しつづけ、しかも人口、国土も日本の10倍、26倍とあって、「負の遺産」も半端ではない。

 日本では、1960~1970年代の高度成長時代に、水俣病、森永ヒ素ミルク事件、カネミ油症事件、スモン薬害事件、薬害エイズ事件に代表される多くの社会的大事件が発生した。
 光化学スモッグやヘドロ堆積などによる環境破壊もひどかった。
 現在、中国では目覚ましい発展の陰で、かつての日本の姿をほうふつとするような事件や不祥事が頻発している。

 日本では殺人案件や交通事故死が40年前に比べ半分以下に。
 公害訴訟も激減している。
 水洗化率の飛躍的向上や医療施設整備などにより、平均寿命も世界有数の水準となった。
 健康・雇用保険や年金も整備され国民の暮らしぶりは豊かになった。
 「日本人は経済成長時代を懐かしみその技術を誇るのではなく、高度成長の歪の克服法や経済構造を転換するためのノウハウを中国をはじめとする発展途上の国に提供することによって、活路が開ける」
との宮内所長の提言は傾聴に値しよう。

 「中国はまだまだ安心・安全面では後進国。
 日本の公害対策や保険制度を学びたい」―。
 これは北京で出会った中国政府や企業経営者の多くが一様に語っていたことだ。
 「中国と日本が争えば利を失い、和すれば益する」
 「日本と中国は利害が一致している」
とも口を揃えていた。
 日中の経済関係は相互に補完し合える分野が多い。
 とりわけ環境問題や省エネ、さらには高齢化に対応した医療や年金などの社会インフラに関しては日本が今後、新たなモデルプランを提示し大きな対価を得ることも可能だ。
 日本の成長戦略にも寄与しよう。

<巨象を探る・その10>
<「巨象を探る」はジャーナリスト・八牧浩行(株式会社Record China社長・主筆)によるコラム記事>
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